「聖イッサ伝」
第11章
1.イッサの釈明を聞いた祭司と、賢い長老らは、彼を裁かぬことに決めた。なぜならイッサは、だれも傷つけてはいなかったから。そして彼らは、ローマの国の異教徒の王によって、エルサレムの統治者として定められていたピラトの前に出て、こう述べた。
2.「私たちは、民をそそのかしているとして、あなたが告発なさったあの男に会って来ました。私たちは彼の説教を聞き、彼が私たちの同国人であることを知りました。
3.「更に町々の長らは、あなたに間違った報告をしています。というのは、この男は民に神のことばを教える義人です。彼を尋問して私たちは安心し、彼を行かせました。」
4.これを聞いて統治者は怒りに駆られ、変装させた家来をイッサの身近に送り込んだ。イッサの行動すべてを監視させ、彼が民に向けて語ることばを、細大漏らさず報告させるために。
5.聖イッサはその間、隣接する町々を訪ねて回り、創造主の真の道を説き、ヘブライ人に忍耐を教え、やがて来るべき救済を約束した。
6.この間ずっと、彼の行くところどこにでも、多くの人々がつき従い、幾人かは片時も離れぬ彼のしもべとなった。
7.そしてイッサは言った。「人が作った奇跡を信じてはなりません。なぜなら、超自然のわざを行うのは、自然を支配する天の主だけです。人は風の怒りにも逆らえず、雨をあまねく降らすことにも無力です。
8.「ですが、人にも一つだけ、成就可能な奇跡があります。それを人が真の信仰に溢れ、あらゆる悪念を根こぎにしようと心から誓い、悪業の道を捨て去ることができた、そういうときにだけ起こる奇跡です。
9.「そして神なくしてなされた、すべてのわざは誤りであり、まどわかしであり、魔術に過ぎません。それはただ、そういう術を使う人の魂が、底の底まで破廉恥であり、偽りと、不純に満ちていることを示す以外の何ものでもありません。
10.「占いを信じてはいけません。未来を知るのは神だけです。占い者を信じるものは、自分の心の中の神の宮を汚し、創造主に対する不信仰を、自分で証明しているのです。
11.「占いや占い者を信じることは、人が持って生まれた純真さ、子どものような純粋さを壊してしまいます。地獄の力がその人を支配し、あらゆる罪と偶像崇拝に駆り立てます。
12.「これに対してわれらの神、主は比べるもののない、唯一にして全知全能の、遍在したもう神なのです。すべての知恵を備え、すべての知識を持つのはこの神ただ一人です。
13.「悲しみの中であなたがたを慰め、労働の中であなたがたを助け、病気のときにあなたがたを癒してくださるのは、この神です。だからそういうとき、あなたがたが語りかけねばならないのは、この神に向ってです。かの神に頼んで、拒まれるものはありません。
14.「自然の神秘は、神の手にあります。なぜなら世界は、それが現れる以前から、神の深い計画の中にありました。それがいと高き神のご意志により、ものとしてのかたちを取って、目に見えるものになりました。
15.「神に語りかけるとき、あなたがたはもう一度子どもに帰ります。なぜなら、あなたがたは過去を知らず、現在も知らず、また未来を知ることもありません。神こそが、すべての時の主なのです」
「イエスの失われた十七年」(エリザベス・クレア・プロフェット著/下野博訳)より
(続く)