天国への一歩

神・霊・魂、霊の見分けの話題。キリスト教信仰が出発点です。

イエスの失われた17年(10)  ピラトの前へ/十字架に架けられる

「聖イッサ伝」

第13章

1.聖イッサはこうして三年間、イスラエルの民に教えつづけた。町で、村で、道ばたに立ち、草原に座り。彼の予言は、ことごとくそのとおりになった。

2.この間ずっと、変装したピラトの従者たちは、ぴったりとイッサに接触し、監視したが、以前彼に敵意を持った町々の長らが、ピラトに報告したような事実は、何も見られなかった。

3.しかし、聖イッサの驚くばかりの人気は、統治者ピラトをおののかせるようになった。イッサに敵対するものたちによると、民衆の中にはイッサこそ王だと主張するものがあり、イッサが彼らをそそのかしているという。ピラトは彼のスパイの一人に、イッサを告発せよと命じた。

4.そこで兵士らが、命じられてイッサの逮捕に向った。彼は捕えられ地下牢に囚われた。牢にはさまざまな拷問が待っていた。彼らは彼を死に定めるため、拷問にかけて自白を得ようとした。

5.同胞の完全な幸福だけを考えていた聖者は、創造の主の名において、この苦しみに耐えた。

6.ピラトの家来たちは拷問を続け、イッサを極端な衰弱に追い込んだ。だが神はイッサとともにあり、彼の死ぬのを許されなかった。

7.聖者が受けている苦しみと、拷問のことを聞き知った大祭司、賢い長老たちは、統治者のもとへ赴き、近づいている祭りの栄光のためにも、イッサを自由にしてほしいと頼んだ。

8.だが為政者は、にべもなく拒んだ。そこで大祭司らはローマ人の法廷でイッサを裁いてほしいと、更に懇請した。祭りの前にイッサが有罪を宣告されるか、それとも無罪で放免されるかがはっきりするように、と。ピラトはこれに同意した。

9.次の日、為政者はイッサを裁きにかけるため、地区の長、祭司、賢い長老、そして司法官らを召集した。

10.彼らはイッサを牢から出し、為政者の前、同時に裁かれる二人の盗賊の間に座らせた。罪に落されるのがイッサ一人ではないことを、群衆に知らせるためだった。

11.ピラトはイッサに向って、こう言った。「男よ!おまえは自分がイスラエルの王位につこうとして、総督庁に叛(そむ)くよう、民衆を扇動していると聞く。これは事実か」

12.「自分の意志だけでは、だれも王にはなれません」と、イッサは答えた。「私が民衆に、反乱をそそのかしていると、あなたに報告した人は嘘つきです。私は天国の王のこと以外、何も話したことはありません。私が民衆に崇拝せよと教えているのは、まさにこの天国の王に対してです。

13.「なぜならイスラエルの子らは、本来の純粋さを失くしてしまいました。そしてもし、彼らが、真の神に頼ることをしないなら、彼らは見限られ、宮は廃墟になるでしょう。

14.「国の秩序が、世俗の力に支えられている以上、それに従うことを忘れてはならないと、私は民に教えています。私は彼らに言います。『あなたがたの身分、あなたがたの運命に素直に生きなさい。公の秩序を妨げないように』、と。そして私は彼らの心、彼らの意識は、もともと無秩序に支配されているものだということを、忘れないようにとさとしています。

15.天国の王が民を罰し、地上の王を抑えて来たのはこのためですが、それでもなお、私は彼らに告げました。「『もしあなたがたが自分の運命に甘んじるなら、必ず天の御国は約束される』、と」

16.このとき、証人たちが前に呼び出され、その中の一人がこう証言した。「あなたは民衆に、新しい王の力に比べれば、この世の権力は無に等しいと言ったではありませんか。そしてその新しい王が、やがて異教徒のくびきから、イスラエルの民を救うだろうとも」

17.「あなたは幸いです」と、イッサは言った。「正しいことを言っているのですから。天の王は、地上の法よりずっと偉大で、ずっと強い力を持っています。そしてその王国は、地上のあらゆる王国に勝っています。

18.「そして神のみ心に従い、イスラエルの民が、罪から身を清める時は近づいています。なぜなら、民を一つの囲いに集めて解放を宣言するために、先触れのものが来ることは、もう明らかになっているのですから」

19.すると為政者が、裁判官らに向って言った。「聞いたか?イスラエル人イッサは、告発された自分の罪を告白した。あなたがたの法に従って彼を裁き、彼に死罪を宣告しなさい」

20.「彼を罪にすることはできません。」祭司や長老らは答えた。「お聞きのとおりです。彼は天の王について例え話をしただけで、法に背くようなことは、何もイスラエルの民に説いてはおりません」

21.すると統治者ピラトは、もう一人の証人を呼びにやらせた。ピラトにそそのかされ、イッサを裏切った男である。男は来て、イッサにこう言った。「あなたは確かに、天をおさめているあのかたが、民に用意をさせる先触れとして、あなたをこの世に遣わしたと言いました。そしてそのとき、自分こをイスラエルの王だと言ったではありませんか」

22.するとイッサは男を祝福したあと、こう言った。「あなたは赦されます。本心からそう言っているのではありませんから。」そして総督に向き直り、「どうしてあなたは、自分の品位を恥ずかしめるのですか。どうして家来に、間違った生き方を教えるのですか。自分の手は汚さずに、無実のものを罪に落とす力を持っているあなたが」

23.総督はこれを聞いて怒り狂い、イッサに死の宣告と、二人の盗賊の赦免を命じた。

24.協議を終えた裁判官らは、ピラトに言った。「私たちは無実の人を有罪にし、盗賊らを釈放するという大きな罪を負うことはできません。それは法に背きます。

25.「だからどうぞ、あなたの思いのままに。」祭司と賢い長老たちは、こう言い残して法廷を出、聖なる鉢で手を洗って言った。「この義人の死について、私たちに責任はない」


第14章

1.総督の命により、兵士はイッサと二人の盗賊を捕らえ、処刑場へ連れ出した。彼らはそこで、地に立てた十字架に釘付けされた。

2.十字架の下を兵士が警固し、架けられたイッサと二人の盗賊は、終日放置された。見るも怖ろしい眺めであった。群衆は周りを囲んで立ち尽くし、受難者の身寄りのものは、祈り、哭(な)いた。

3.日没、イッサの受難は終わった。意識を失ったこの義(ただ)しい人の魂は、肉体を離れ神に受け止められた。

4.こうして、永遠の霊の反映、人の姿を取った地上の存在は終わった。その人は、心を頑なにされた罪人を救い、多くの苦しみに耐えた。

5.一方ピラトは、ようやく自分のしたことに怖れを覚え、聖者の遺体を両親に引き渡した。親たちは遺体を、処刑場の近くに葬った。群衆が、祈りを捧げるため、墓に集まった。あたりは呻きと嘆きの声に満たされた。

6.三日の後、民衆の暴動化を怖れた総督は、イッサを他に埋葬するため、遺骸を運び出させようとして、兵を差し向けた。

7.ところが次の日、群衆が見たのは、開かれて空になった墓である。たちまちうわさが広がった。至高の裁き主が天使を送り、地上で神の霊を宿していた聖者の遺骸を持ち去った、と。

8.このうわさを聞いてピラトは怒り、イッサの名前を唱えること、イッサのために主に祈ることを禁じ、従わぬものは奴隷にするか、極刑をもって臨むと宣言した。

9.しかし人々は、彼らの主イッサのために哭き、声を上げてその名を賛美した。それゆえ多くが捕らわれ、拷問を受け、死に定められた。

10.そして聖イッサの弟子たちは、イスラエルの地を捨て、異教徒の間に散っていった。異教徒たちに誤った行ないを捨て、魂の救いについて、人間性の完成による幸せについて考えるように、と説きながら。また真の人間性は、偉大な創造主の、霊の光の国を思うことによってのみ回復される。無限の純粋と完全な威光をもって、主はそこに安らかに在(いま)す、と教えながら。

11.異教徒も、その王たちも王の戦士らも、彼らの不合理な信仰を捨て、この教えに耳傾けた。彼らの祭司、彼らの偶像は捨てられ、比類なく賢い全宇宙の創造主、王の中の王はあがめられ、祝された。主の心は、限りなく慈悲に満ちている。

「イエスの失われた十七年」(エリザベス・クレア・プロフェット著/下野博訳)より

(終わり)